大会長ご挨拶

 北海道で久しぶりの家族療法学会をやります。6月末のこの時期、おそらくは札幌の一番快適な季節かなと思います(が、実は気候変動の影響で毎年違うので今からドキドキしています)。

 今、日本社会は、人口減少や急速な高齢化など巨大な変化に晒されています。社会的ひきこもりや、地域の解体(都市での孤立や限界集落問題など)、さらに家族の解体など、すべての人の人生を揺さぶる程の、激しい影響力を生んでいると思います。
 これらが社会の全領域に影響するのは当然ですが、中でも医療・保健・福祉・教育・行政・司法など、人々を支援する仕組みの中で働く方の多くに、(個々の本人だけでなく)「家族を視野に入れて効果的にケースに応ずる方法論」を学び深める場が、強く社会から要請される時代にいよいよ突入したと言えるでしょう。
 私は常々思っているのですが、臨床現場での小さな工夫を積み重ねないことには、本人・家族との関係も維持できないし、相談や治療はうまく展開しないと思います。家族療法は“家族全員を一堂に集めなければならない七面倒くさいやり方”と誤解される向きがあるかも知れませんが、それは違います。現在の家族療法は、もちろん各々の家族を大事にしながらも、家族以外の人間関係の在り方も広く視野に入れ、実際には個別ケース対応の場面でも臨床応用可能な方法にまで進化しております。
 従ってむしろ、時代の変化に答えようと苦闘する臨床家には、必携の学びとして重要な機会になるのでは、と自負しております。

 さて、そのような背景を踏まえて、今回の北海道大会では、入門者にも優しい企画を考えております。大会テーマは、

「We Can Do ~関係と変化を生み出す基本を学ぼう」

と定めました。
 前半は、支援者にもきっと“出来る”、悩みや問題を抱える人たちにも自分らしい人生を“歩んで行ける”、というエールでありかつ理念です(もちろん北海道の“Do”をかけています)。後半では、個別ケースの問題点をいたずらに掘り下げるだけの方法論ではなく、支援者と本人、家族と本人、社会生活と本人の関係性に有益な変化を生み出す発想力と実践力を持つことを提唱しています。
 関係と変化を生み出す基本の技術を、多くの支援者が身に付けられるような、学びの糸口になる学会を目指す所存です。
 6月の青空の下、皆さんにお会いできることを楽しみにしています。

大会長  阿部 幸弘